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アンバー

 宝石の内「アンバー」について、組成・特徴・歴史・産地などを写真や動画を交えて解説します。

アンバーの組成

アンバーの外観写真
  • 分類:-
  • 組成:C10H16O
  • 結晶系:-
  • 色:多彩
  • 光沢:-
  • モース硬度:2-3
  • 比重:1.05-1.10
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アンバーの特徴

 アンバー(琥珀/こはく)とは、木の樹脂が地中に埋没し、長い年月により固化したものです。半分だけ化石化した琥珀は、特に「コーパル」(copal)といいます。
 アンバーの元となる樹脂はまず、地層による圧力と温度によって分子重合を起こし、「コーパル」という状態に変わります。その後さらに持続的な高温・高圧環境にさらされ続けると、最終的にはアンバーに変わると考えられます。
 鉱物ではないものの、鉱物に匹敵する硬度をもち、ヨーロッパでは古くから宝飾品として加工されてきました。

アンバーの色

 アンバーは、「アンバー色」という言葉があるように、通常は黄色からオレンジがかった色を呈します。しかし実際には様々な色合いがあり、白っぽいものや薄いレモン色、果ては黒いものまであります。
 パイライトを含んだものは青みがかった外観になり、小さな気泡を含んだものは「ボウニーアンバー」(bony amber)と呼ばれ、雲がかかったような不透明な色合いになります。ちなみに、「ブラックアンバー」(black amber)と呼ばれる黒色のものはジェットの亜種であり、厳密な意味ではアンバーではありません。
 珍しいものとしては、チェリーアンバー(赤)、グリーンアンバー(緑)、ブルーアンバー(青)などがあります。中でもドミニカ共和国に産するブルーアンバーは高級品で、日光の下では青色を呈しますが、長波紫外線の元では強い反射を示し、ほとんど白色に発光します。年間産出量がわずか100kgと少ないため価格も高く、コレクターの羨望の的です。
ドミニカ産ブルーアンバー
 以下でご紹介するのはドミニカ共和国サンチェス鉱山で採れたブルーアンバーの動画です。淡い光の下で美しいウルトラマリンブルー(マドンナブルー)を見せます。 元動画は⇒こちら

アンバーの語源

 英語のアンバー(amber)はアラビア語の「anbar」から来ていますが、この「anbar」という語は、元々は中世ラテン語の「ambar」、そして古フランス語の「ambre」に由来しています。
 「anbar」という語はマッコウクジラから採れる高級オイルの事を指しており、これは今で言う「ambergris」(竜涎香-りゅうぜんこう)のことです。その後、1400年頃になると言葉の意味が広がって、「樹脂」を指すようになり、もともとの指示対象であった「竜涎香」の意味が徐々に消えていきます。竜涎香と樹脂は、両者とも「浜辺に打ち上げられた形で見つかる」という共通点をもっていたため、いつのまにか言葉が混同してしまったというのが通説です。その後アンバーと言う言葉は、十字軍の進軍と共にヨーロッパに広っていきました。
 ちなみにアンバーを200度以上に熱すると、成分が分解して「コハク油」(oil of amber)と呼ばれるものに変わり、そのうち「コハクやに」(amber colophony/amber pitch)と呼ばれるかすを残します。アンバーをさらに加熱すると、ついには燃えてしまいますが、ドイツ語でアンバーのことを「bernstein」(「燃える石」という意味)というのはこのためです。

アンバーの産地

 アンバーは、主として白亜紀(1億4300万年前~6500万年前までの間)以前の岩石から採取されます。
 世界中に流通していますが、かつてはプロイセン(旧ドイツ連邦の王国で、現在ドイツ北東部~バルト海南岸の大部分を占める地方)が主要産地であり、現在ではおよそ90%のアンバーがバルト海近辺のロシアで採取されます。
 ロシアでは、波によって自然に砕かれたアンバーを人間の手で集めたり、海底をすくうことでかき集められます。その他の産地においては、露天掘り、もしくは地下採掘という形で掘り返されます。
 ドミニカのアンバーはベルピッティング(bell pitting=入り口が狭く、中が広くなるという、ちょうどつぼ断面のような形を地中に掘ること)によって採掘されるため大変な危険を伴う作業ですが、ここで採れるブルーアンバーは高値で取引されます。
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アンバーの加工

 アンバーに対する人工処理は様々です。
 2つのアンバーを熱し、亜麻仁油(あまにあぶら-linseed oil)をつけて表面をこすり合わせ、強い圧力をかけると、一つの塊になります。また、濁って不透明なクラウディアンバー(cloudy amber)をオイルに浸すと、表面にある無数の小孔が埋まり、濁りが消えて透明感が出ます。かつては捨てられたり興行利用に回されていたような小さなアンバーは、今では加圧処理によって様々な形に加工され、「アンバロイド」(amberoid)と呼ばれます。
 コーパル(熱帯産樹脂のことで、ワニス・ラッカーなどの原料になる)やカウリ(カウリマツと呼ばれる松の一種)による模造品も出回っており、ひどいものになるとセルロイドや単なるガラス製のものまであります。
 ちなみにアンバーの中で最も有名、かつ大量に流通しているバルト海産の「バルティックアンバー」(Baltic Amber)は、時として人工処理を受けますが、国際琥珀協会はアンバーに対して施される人工処理に応じて、以下のようなカテゴリを設けています。
アンバーの人工処理
  • Natural Baltic amber 研磨、カッティングなど、機械的な処理を施されたのみで、元の組成に変化が加えられていないのアンバー
  • Modified Baltic amber 高温処理、もしくは高圧処理のみを施され、透明度や色に変化が加えられたアンバー
  • Reconstructed (pressed) Baltic amber 追加成分なしで、高温・高圧処理を施されたアンバー
  • Bonded Baltic amber 必要最小限の介在物で、二つ以上のアンバーが接着融合されたもの
バルティックアンバーコレクション
 以下でご紹介するのは、クオリティの高さで定評のあるバルティックアンバーのコレクションです。 虫入りコハクも何個か見受けられます。 元動画は⇒こちら

アンバーの混入物

 アンバーは、通常であれば化石にならずに崩壊してしまうような有機物を含むことがあるため、古生物学の分野で非常に重要な意味を持っています。
 実際に発見された有機混入物としては、クモ、クモの巣、ミミズを始めとする環状動物、カエル、甲殻生物、バクテリア、アメーバ、木、花、果実、何らかの動物の体毛や羽毛などで、これらはおよそ130万年前のものと考えられています。
 アンバーの混入物については、大プリニウス(紀元1世紀頃に活躍したローマの博物学者)の「博物誌」にも記述が見られます。彼はいみじくも、「何らかの液体が固形化してアンバーが形成されたのだろう」という見解を示していますが、これはアンバーの中に含まれる昆虫に着想を得たものです。彼はアンバーに対して「succinum」という名を与えましたが、これは「宝石」を意味する言葉です。
 ちなみに、市販されているような安価な「虫入り琥珀」は人工的に作られたものですので、学問的には何の価値もありません。

アンバーの分類

 アンバーは今日、含有成分によって5つのクラスに分類されます。
 アンバーを構成しているのは樹脂のうち、化石化する可能性を持ったものは2つあります。1つは、針葉樹や被子植物によって生成されるテルペノイド系樹脂で、共通組成はC5H8です。そしてもう1つは、被子植物によってのみ生成されるフェノール系樹脂です。
 こうした樹脂の成分を化学的に分析し、以下のようなクラス分けがされます。

Class I

 最も多く見られるタイプで、ラブダトリエン-カルボン酸から構成されている点が特徴です。更にIa、Ib、Icというサブクラスを持ちます。
Class Iアンバーの分類
  • Ia  通称「サクシナイト」(succinite)と呼ばれるバルト海産のアンバーを含むクラスで、コハク酸(succic acid)を多く含む点が特徴です。
     サクシナイト(バルト海産アンバー)は3~8%のコハク酸を含み、 ボウニーアンバーと総称される濁って不透明なアンバーの大部分を占めています。燃やしたときに発する刺激性の強い匂いの原因は、主としてこのコハク酸です。
     サクシナイトのモース硬度は2~3程度、比重は1.05~1.10程度です。
     多量に含まれているコハク酸は元からアンバーの中にあったものではなく、おそらくアビエチン酸が劣化変性して生成されたものだろうと考えられています。
  • Ib  コミュニック酸(communic acid)を含むと言う点ではIaと共通していますが、Ibはコハク酸を含みません。
  • Ic  enantio-labdatrienonic酸を含み、ドミニカアンバーが代表です。
     ドミニカ産のアンバーは、大部分が透明で、なおかつ多彩な内包物を有するという点でバルト海産アンバーと一線を画しています。ドミニカ産アンバーの多くは絶滅種である「Hymenaea protera」という樹木の樹脂から形成されており、バルト海産アンバーの「サクシナイト」に対して「レティナイト」(retinite/樹脂石)と呼ばれます。

Class II

 「Class II」はセスキテルペノイド基をもった樹脂から形成されたアンバーです。

Class III

 「Class III」はポリスチレンを含むアンバーです。

ClassIV

 「Class IV」には分類が難しいアンバーが入ります。

Class V

「ClassV」は、松、もしくは松の近縁にある木で形成されたアンバーです。ジテルペノイドとN-アルカリを構成成分に含みます。

アンバーの利用方法

 長い歴史を通じ、アンバーは様々なものに利用されてきました。
 最も代表的な利用方法は「宝飾品」です。ヨーロッパにあるミケーネ文明(紀元前1600~1100年ごろ)の遺跡において、アンバーの装飾品が発掘されており、最も古いものでは13,000年前の石器時代にまで遡ることができます。
 民間療法の分野においては、ヒーリング作用を信じる人々によって長らく利用されてきた歴史があります。アンバーやそこから抽出された成分は、古くはヒポクラテスの時代から医療に使われており、20世紀初頭まで存続していました。
 アンバーはまた香料としても利用されます。古代中国では、アンバーを燃やして通称「コハク油」と呼ばれるものを抽出し、独特の人工ムスク香を作り出しました。なお、現代にも「アンバー」と呼ばれる匂いが存在しますが、それは通常本物のアンバーを指しておらず、広くラブダナムの匂いを指します。「ラブダナム」(Labdanum)とは、香水に使われるロックローズから抽出される、やさしい黒味がかかった樹脂滲出液のことです。
映画ジュラシックパーク
 以下でご紹介するのは映画ジュラシックパークのトレイラーです。
 映画における設定は、南アメリカで発掘されたアンバーの中に、恐竜の血を吸って生きていたジュラ紀の蚊が閉じ込められており、その蚊の体内から恐竜のDNAを抽出することで、現代に恐竜をよみがえらせる、というものです。
 現実の話では、1994年、分子生物学者であるドクターRaul Canoが、科学雑誌「Nature」において、1億2000万年~1億3500万年前のアンバー内にトラップされていたゾウムシの体内からDNAを抽出したという報告をしています。この時期は実際に恐竜が生存していた時期に重なりますので、ジュラシックパークの設定も、あながち荒唐無稽とは言えないかもしれませんね。 元動画は⇒こちら
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